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10月



阪田寛夫

1925年10月18日 生まれ


   サッちゃん


サッちゃんはね

サチコって  いうんだ

ほんとはね

だけど  ちっちゃいから

じぶんのこと

サッちゃんて  よぶんだよ

おかしいな  サッちゃん


サッちゃんはね

バナナが  だいすき

ほんとだよ

だけど  ちっちゃいから

バナナを  はんぶんしか

たべられないの

かわいそうね  サッちゃん


サッちゃんがね

とおくへ いっちゃうって

ほんとかな

だけど ちっちゃいから

ぼくのこと

わすれてしまうだろ

さびしいな サッちゃん





        熊にまたがり


熊にまたがり屁をこけば

りんどうの花散りゆけり


熊にまたがり空見れば

おれはアホかと思わるる


「美しい日本の詩歌 F 阪田寛夫童謡詩集 夕日がせなかをおしてくる」岩崎書店より




















































中原中也

1937年10月22日 没

          一つのメルヘン


秋の夜は、はるかの彼方に、

小石ばかりの、河原があつて、

それに陽は、さらさらと

さらさらと射しているのでありました。


陽といっても、まるでけいせき硅石か何かのやうで、

非常な個体の粉末のやうで、

さればこそ、さらさらと

かすかな音を立ててもゐるのでした。


さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、

淡い、それでゐてくつきりとした

影を落としてゐるのでした。


やがてその蝶が見えなくなると、いつのまにか、

今迄流れてゐなかつた川床に、水は

さらさらと、さらさらと流れているのでありました……


日本詩人全集22 中原中也/『在りし日の歌』新潮社より






































天野忠

1993年10月28日 没


    浴後


裸で向き合って

私は

あーあ、と云った。

あなたも

私を見て

あーあ、と云った。

私の手があなたを撫ぜて

アッ、アッ、と云い

あなたの手が私に触れて

アッ、アッ、と云い

お互いをみつめ合い

よだれを垂らし…

どっちも

生まれて八ヶ月

                                   
未刊詩集「続・掌の上の灰」より







    夫婦


四十五歳のお前が

空を見ていた

頬杖をついて

ぽかんと

空を見ていた

空には

鳥もなく

虹もなかった

何もなかった

空には

空色だけがあった


ぽかんと

お前は

空を見ていた

頬杖をついて

それを

私が見ていた。

                                           抄詩篇より







   あーあ


最後に

あーあというて人は死ぬ

生まれたときも

あーあというた

いろいろなことを覚えて

長いこと人はかけずりまわる

それから死ぬ

わたしも死ぬときは

あーあというであろう

あんまりなんにもしなかったので

はずかしそうに

あーあというであろう。


                                              「動物園の珍しい動物」より


「現代詩文庫 85  天野忠詩集」思潮社 より