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ぼくが ここに ぼくが ここに いるとき ほかの どんなものも ぼくに かさなって ここに いることはできない もしも ゾウが ここに いるならば そのゾウだけ マメが いるならば その一つぶの マメだけ しか ここに いることはできない ああ このちきゅうの うえでは こんなに だいじに まもられているのだ どんなものが どんなところに いるときにも その「いること」こそが なににも まして すばらしいこと として やぎさんゆうびん しろやぎさんから おてがみ ついた くろやぎさんたら よまずに たべた しかたがないので おてがみ かいた ―さっきの おてがみ ごようじ なあに くろやぎさんから おてがみ ついた しろやぎさんたら よまずに たべた しかたがないので おてがみ かいた ―さっきの おてがみ ごようじ なあに
愛憐 きつと可愛いかたい歯で 草のみどりをかみしめる女よ、 女よ、 このうす青い草のいんきで、 まんべんなくお前の顔をいろどつて、 おまえの情欲をたかぶらしめ、 しげる草むらでこっそりあそばう、 みたまへ、ここにはつりがね草がくびをふり、 そこではりんだうの手がしなしなと動いてゐる、 ああ私はしつかりお前の乳房を抱きしめる、 お前はお前で力いつぱいに私のからだを押さえつける、 さうしてこの人気のない野原の中で、 わたしたちは蛇のやうなあそびをしやう、 ああ私は私できりきりとお前を可愛がつてやり、 おまへの美しい皮膚の上に、青い草の葉の汁をぬりつけてやる。
恋を恋する人 わたしはくちびるにべにをぬつて、 あたらしい白樺の幹に接吻した、 よしんば私が美男であらうとも、 わたしの胸にはごむまりのやうな乳房がない、 わたしの皮膚からはきめのこまかい粉おしろいのにほひがしない、 わたしはしなびきつた薄命男だ、 ああ、なんといふいぢらしい男だ、 けふのかぐわしい初夏の野原で、 きらきらする木立の中で、 手には空色の手袋をすつぽりはめてみた、 腰にはこるせつとのやうなものをはめてみた、 襟には襟おしろいのやうなものをぬりつけた、 かうしてひつそりとしなをつくりながら、 わたしは娘たちのするやうに、 こころもちくびをかしげて、 あたらしい白樺の幹に接吻した、 くちびるにばらいろのべにをぬつて、 まつしろの高い樹木にすがりついた。
三匹の死んだ猫 三匹の猫が死んだ 一年に一匹ずつ、順に死んだ。 二十年、三匹の猫と、ともに暮らした。 最初の猫は、黙って死んだ。 車に轢かれて、突然死んだ。 二匹目の猫は、毅然として死んだ。 最後まで四本の脚で立ち上がろうとし、 できなくなって、はじめて、 崩れおちるようにして、死んでいった。 三匹目の猫は、静かに死んだ。 耳は聴こえなかった。歯は噛めなかった。 それでも、いつもチャーミングだった。 自分で横になって、目を瞑って死んだ。 この世に生まれたものは、死ななければならない。 生けるものは、いつか、それぞれの 小さな死を死んでゆかなくてはならない。 二十年かかって、三匹の猫は、 九つのいのちを十分に使い果たして、死んだ。 生けるものがこの世に遺せる 最後のものは、いまわの際まで生き切るという そのプライドなのではないか。 雨を聴きながら、夜、この詩を認めて 今日、ひとが、プライドを失わずに、 死んでゆくことの難しさについて考えている。 イツカ、向コウデ 人生は長いと、ずっと思っていた。 間違っていた。おどろくほど短かった きみは、そのことに気づいていたか? なせばなると、ずっと思っていた。 間違っていた。なしとげたものなんかない。 きみは、そのことに気づいていたか? わかってくれるはずと、思っていた。 間違っていた。誰も何もわかってくれない。 きみは、そのことに気づいていたか? ほんとうは、新しい定義が必要だったのだ。 生きること、楽しむこと、そして歳をとることの。 きみは、そのことに気づいていたか? まっすぐに生きるべきだと、思っていた。 間違っていた。ひとは』曲がった木のように生きる。 きみは、そのことに気づいていたか? サヨウナラ、友ヨ、イツカ、ムコウデ会オウ。