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ソネット(sonetto)
西洋古典音楽に「ソナタ形式」という楽式があります。主題呈示部 - 展開部 - 再現部といった三部構成で、二つの主題をもととした美しい構成美を持つ音楽形式です。

詩の世界には、それと語源を同じくする「ソネット」と呼ばれる定型詩があります。それはルネサンス期にイタリアで生まれ、イギリスに渡り、やがてフランス最後の定型詩となった、西欧を代表する詩の形式です。

大正から昭和にかけて、日本に渡ってきたソネットは、フランスのソネットに似せて4・4・3・3行、全14行で構成されていますが、西欧のそれのように脚韻の踏み方がきちんと決まっていない、ゆるやかな定型詩です。

2004年は「韓流」と呼ばれた韓国ドラマブームで賑わいましたが、その火付け役となったのは『冬のソナタ』でした。今日までそれを一度も観ずにいるのですが、その向こうを張って「ProjectP」の授業では、『冬のソネット』と題した作品展を催しました。

その時、生徒たちにソネットのお手本として配ったのが次の二作品です。ご参考までにどうぞ。

立原道造 「夢みたものは」     中原中也 「一つのメルヘン」

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立原道造


  夢みたものは……



夢みたものは  ひとつの幸福

ねがったものは  ひとつの愛

山なみのあちらにも  しずかな村がある

明るい日曜日の  青い空がある



日傘をさした  田舎の娘らが

着かざって  唄をうたっている

大きなまるい輪をかいて

田舎の娘らが  踊りをおどっている



告げて  うたっているのは

青い翼の一羽の小鳥

低い枝で  うたっている



夢みたものは  ひとつの愛

ねがったものは  ひとつの幸福

それらはすべてここに  ある  と




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中原中也


  一つのメルヘン


秋の夜は、はるかの彼方に、

小石ばかりの、河原があって、

それに陽は、さらさらと

さらさらと射しているのでありました。



陽といっても、まるで硅石か何かのやうで、

非常な固体の粉末のやうで、

さればこそ、さらさらと

かすかな音を立ててもゐるのでした。



さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、

淡い、それでゐてくっきりとした

影を落としてゐるのでした。



やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、

今迄流れてもゐなかった川床に、水は

さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……




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