彼氏ってブランド品かな


 二つ折りの携帯電話を開いて、彼氏のメールアドレスを探す。8月初め、高校生活最後の夏休み。ファミレスで声をかけられつき合い始めた。

 10日ほど連絡がない。親指で文字を打ち込む。「もう別れよっか」。送信。

 どんな人だったのか、結局よく分からない。

 顔が好み、会話のノリが合う。そんな「いい感じ」の人に出会えば、メールを何度も送って「その気」にさせて、とりあえずつき合う。「先に好きになった方が負け。自分が優位に立ちたいから」

 初体験は14歳。3度目の告白で初めてつき合った先輩から、すぐに迫られた。我慢して受け入れた後、言われた。「好きかどうか分からない」。次に好きになった人は、こうだった。「お前といるときはお前の彼氏。違う人といるときは違うから」

 「遊ばれる前に遊び返してやる」。そう決めた。

 中学2年から約4年で30人近くとつき合った。最短で2日、最長で5カ月。彼氏のほかにも気になる人ができる。うまくいけば乗り換える。

 一度だけ、「本気の恋」に落ちた。

 高校1年の夏休み、同級生の野球部員だった。放課後の帰り道、2人で公園に寄って素振りを教えてもらった。河原で平たい石を探した。「今ごろ何してるんだろう」。夜、ひとりでいるとせつなくなる。こんな人は初めてだった。

 別れは突然だった。前の彼氏と別れられずにいたことが知れて、口もきいてくれなくなった。寂しかった。ひとりは嫌だった。相談に乗ってくれた別の人とつき合って、1週間で別れた。

 「いま何してるの?」。また次のだれかにメールを打ち始める。満たされないと分かっていても。

 卒業まで6カ月。将来どころか来年すら見えない。歌手になるのが夢。音楽関係の専門学校に入りたいけど、母親は「そんなの無理、無理」。近所の目の方が気になるみたい。帰りが遅いと怒鳴られる。ピアスが見つかったときは髪を引っ張り回された。

 産婦人科に行く前に、母親の反応を試そうと思った。避妊が失敗して不安だった。

 「あーなんか気持ち悪い。妊娠したかも」「ふーん」

 ふーんってそれだけ? 別にいいけど。向き合って気持ちを聞こうなんて、一度もしてくれたことないよね。

いないと寂しい、いても寂しいけど

 「しよっか」「やだ」

 「いいだろ」「やだって」

 そのうち押し切られる。「あーあ、またか」と思う。目を閉じて、たまに天井を見つめて終わるのを待つ。会うのはいつも彼氏の部屋。どこかに出かけるデートなんて、もうずいぶんしていない。

 「カレシ」ってブランド品みたい。いいかどうかは分からないけど、ただいつも身につけておきたい感じ。

 「友達にも見せたいし、いないと寂しいし……ははっ、いても寂しいけど」

 なんでだれかを深く愛せないんだろう……。そんな自分がイヤでたまらない。

(09/18)